腸の腫瘍

●はじめに

犬猫ともに腸にも腫瘍が発生します。
症状としては、食欲や元気の低下以外に、嘔吐、下痢、血便、黒色便、腹囲膨満、腹部の痛みなどの症状を呈することがあります。
身体検査、血液検査、画像検査などを行いながら、病変を特定していきます。

腸にできる腫瘍にも様々な種類があり、低侵襲な針吸引細胞診検査で診断できるリンパ腫のような腫瘍もありますが、外科切除して病理組織診断が必要なものが多く、同時に良性なのか悪性なのか判断します。

 

当院で治療を行った子の経過をご紹介いたします。
(手術画像もあるため、苦手な方は注意してください)

このネコちゃんは16歳の男の子で、前日からの嘔吐と食欲低下で来院されました。
血液検査からは黄疸、膵炎が見つかり、
画像検査では腹水(重度の炎症性)と腸管病変が見つかりました。
腸管の病変部は以下に示す通り、腸管の構造が崩れ、さらにその周りに大網と考えられる組織が異常な形態で囲んでる状況でした。


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○で囲んだ箇所が腸を輪切りにした超音波検査所見です。
正常では腸管はきれいな5層構造をとっていますが、ここでは層構造が壊れ不明瞭になっています。

 

以上の所見からなんらかの原因による腸管穿孔または腸閉塞を疑い、それに続発して膵炎、黄疸が起きている可能性が高いと判断しました。
腸管病変に対して針吸引細胞診検査を行った結果、炎症細胞は多く採れましたが、それ以外の異常細胞は見られませんでした。

仮に腸管穿孔や閉塞が存在する場合、点滴などの内科治療ではほぼ改善しないため、ご相談の上、試験開腹を行い腸管や周辺の臓器の確認を行いました。

 

①病変の確認

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開腹して腸を確認すると、○で囲んだ部分が完全閉塞しており、穴も空いている状態でした。
さらにその病変には硬結した大網が激しく癒着していました。
腸間膜の色も非常に赤みを帯びており、血流の悪さがうかがえます。
さらに腸間膜などに白いツブツブの結節が無数に見られます。

 

②大網の癒着を全て剥がします

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閉塞部分は色が変色し、壊死が起きています

 

③閉塞部分の両側を切除し、端と端を縫い合わせた所見です

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異常な大網の一部も切除して、病理組織診断を行います。
その後お腹の中を洗浄して、閉腹しました。

 

切除した腸を見ると、腸組織の異常によって内腔が完全にふさがっており食べ物が全く通らなくなっていました
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術後、順調に腸の機能が回復し、1週間後には自分からごはんを食べ良いウンチを出してくれるようになりました。

 

病理組織診断は「腸腺癌」という悪性腫瘍で、癒着していた大網や白いツブツブの結節はその播種(腹腔内全体に転移していること)によるものでした。
術前の針吸引細胞診検査で炎症細胞以外の異常細胞が見られなかったのは、腫瘍から続発した腸の壊死組織の細胞が採取されたからでしょう(壊死組織に腫瘍細胞がいないことがよくあります)。
今回のケースでは開腹手術によって、①本人の症状を改善させること、②なぜ閉塞したのかを精査することが達成されたことになります。

悪性腫瘍がお腹全体に転移しているため癌に対する治療は困難ではありますが、腸閉塞からは脱却でき、美味しくごはんを食べられるようになりました。


今回は数ある腸管腫瘍の一つのケースをご紹介しましたが、症状も治療も様々なケースがあります。
何かお困りのことがありましたらいつでもご相談ください。